石造物オタクが制作者になるまで(4)

こんにちは、翼石材の企画担当、高橋です。
今回は「石造物オタクが制作者になるまで」の最終回です。

正直にいうと当時は、そのような宝塔の詳細にわたる知識は、きっと庵治産地の誰かが知っている、その人に教えを乞うて学べばいい、とアテにしていました。
庵治には長年石塔制作に携わった経験豊富な石工さんたちがいます。
ところがどこへ行っても、
「意匠の意味はわからない」
「昔から入れている意匠だから問題はない」
と言われるばかりで、私が求めるような答えは得られませんでした。

そこで覚悟を決め、独学で答えにたどり着くしかない、と改めて勉強を始めました。
まず、石造物について詳しく説明されている書籍をさがすところからスタートしようと思いましたが、残念ながら石造物関連の研究書や辞典類がすべてといっていいほど絶版の状態でした。

それでも古本屋やインターネットなどを検索し、徐々にではありますが古書を買い集めることができました。
宝塔の成り立ちや、意匠が表す教義的な意味、各地の代表的な宝塔の実測図なども、そうした古書によって情報を得ることができたと感謝しています。

そしてそれらの知識をもとに、石造物を訪ね歩く旅も重ねました。
単に石造物が好きで訪ね歩いていたころと、中世型の宝塔を自分でつくることになったあとでは、注意を払って見るところも、“見る”という行為自体の重みもまったく違うのだと痛感しました。

満願寺宝塔と乗禅寺宝塔は、石工さんと一緒に、何度、見学にいったかわかりません。
伝統的技法で仕事を続けてきたベテランの石工さんでも、これまで、正式な中世型の宝塔をつくる機会などほとんどなかったのです。
写真ではわからない宝塔細部の形や叩き方などを肉眼で確かめ、それを加工に生かすという日々が続きました。

そうして受注から約7ヵ月後、中世型宝塔のお墓がようやく完成しました。
「一周忌法要に間に合えばいいので、納得のいくものをつくってください」
と仰っていたお施主様は、何度も工房へいらっしゃり、お墓が少しずつ形を成していく様子を私たちと一緒に見守ってくださいました。
現在も、「お墓参りが楽しいです」と喜んでいただいています。

この第1作の経験から、私たちは[世伝石塔(せいでんせきとう)]シリーズをスタートさせることができました。
これをひとりのお施主様との出会いがもたらしてくれた大切な宝物として、今後も精一杯、心を込めてお墓づくりを続けていきたいと思います。