石造物オタクが制作者になるまで(3)
こんにちは、翼石材の企画担当、高橋です。
今回は「石造物オタクが制作者になるまで」の続きを書かせてください。
満願寺宝塔を手本にお墓を制作できることになって、私は喜びでいっぱいでした。
大きな壁はそのあとに待っていました。
宝塔制作に関する知識と経験をもつ人がまったく見つからなかったのです。
手加工を任せる石工さんは、比較的すぐに見つかりました。
弊社のある庵治町は庵治石の産地です。
隣接する牟礼町にまたがって多くの丁場(ちょうば=採石場)が存在し、古くから“石のまち”“石の都”として発展してきました。
手加工の需要がなくなってその技術を受け継ぐ人は全国でも数えるほどになりましたが、ここには他地域よりは多くのベテラン職人が存在します。
問題は、これからつくる宝塔の形態や意匠について、それぞれの“意味”を理解している人がいなかったことです。
たとえば、宝塔の塔身軸部の意匠のひとつに「扉型(とびらがた)」があります。
実は満願寺宝塔には扉型がないのですが、お施主様が「入れたい」と希望されたため、同じ愛媛県にある乗禅寺の宝塔を参考に制作することにしました。
こちらも鎌倉後期の作とされる名品です。
乗禅寺宝塔の扉型は四方にあるため、金剛界五仏を表した意匠となります。
今はそのことを知っていますが、当時の私はまだまだ勉強が足らず、「この扉型にはどんな意味があるのだろう」と疑問に思っていました。
満願寺宝塔の形式に扉型を加えていいものかどうか、お施主様の信仰する浄土真宗には、扉型のある宝塔を用いても間違いはないか、判断のはっきりした根拠が欲しかったのです。
石塔の意匠には古来、宗教や宗派の教義に則った思想・意味が表されています。
宗派によって用いる意匠と用いない意匠も分かれています。
それらを正しく用いない限り、本当の意味で故人を“供養”することはできない、というのが私たち翼石材の考えです。
お墓はお施主様のご一家が何代もお参りして守っていくものですから、どこかに少しでも間違えがあれば、お施主様とご家族に取り返しのつかないご迷惑をかけることになります。