『日本石材工業新聞』に連載が掲載されました。

『日本石材工業新聞』連載「おしえて お墓の話 石造美術オタクのひとり言」が掲載されました。

発行元 日本石材工業新聞

こんにちは、(有)翼石材・企画室の高橋です。前回に引き続き、私の大好きな石造物を紹介させていただこうと思います。

 今回も、どれにしようか迷ったのですが、日本石材工業新聞(令和2年3月25日発行)の付録「お墓は美しい。」シリーズで紹介されていた『安養寺宝塔(あんようじほうとう)』(国重要文化財・鎌倉時代中期)にしました!
 では簡単に紹介をしていきたいと思います。石塔は京都市東山区円山町安養寺の境外仏堂である弁財天を祀る吉水弁天堂の後方に立っています。吉水と呼ばれたこの地は天台の高僧慈鎮和尚(慈円)の隠棲の旧地とされ、慈鎮和尚宝塔と呼ばれています。
 現高約244cm(塔身以上)、花崗岩製のどっしりとした巨塔です。写真を見てお分かりかと思いますが、本来の基礎は失われ、代わりに自然石で補っています。当初は、背が低い屋根(笠)よりも割りと幅広な方形の基礎だったと思われます(根拠はなく、あくまで石造美術オタクの主観です) 。
 塔身は壺形で最大径約78cm、首部は簡素で、軸部は肩から裾にかけてなんともいえない美しい曲線が作り出されています。正面には左右に開いた扉型と、その内に釈迦・多宝二仏並座(にぶつびょうざ)の像容をあらわしています。
 屋根は幅が約112cm、軒が厚く、反りは緩やかです。四隅には低い隅降棟(すみくだりむね)が表現され、上端の露盤(ろばん)も低く作り出されています。
 相輪は、通常の九輪と違い非常に珍しい五輪(五重の輪)となります。
 と、ここまでは、前回と同様の石造物関係の書籍や辞典などに載っているような説明でしたので、ここからもう少し形式や意匠について詳しく説明したいと思います。
 まず、宝塔の塔身は、平面が円形であることが特徴であり、安養寺宝塔の塔身は、首部と軸部からなります。首部とは、人の首のような形状をした軸部上端から立ち上がった部分です。そして軸部の扉型と二仏並座は、宝塔の信仰上の教義である『法華経』見宝塔品(けんほうとうぼん)第十一の一場面、釈迦如来が霊鷲山(りょうじゅせん)で法華経を説法していると、地中から宝塔が涌出し、塔中より多宝如来が釈迦の説法をほめたたえ、塔中に釈迦を招いて半座をわかち、多宝・釈迦二仏が並座した、という諸説にもとづき造形化したものです。ちなみに、多宝・釈迦二仏が並んで座しているので二仏並座といいます。
 次に屋根の隅降棟と露盤ですが、もともと石造宝塔は木造建築や金銅製(金属製)の宝塔を模して作られたものです。隅降棟とは、屋根の四方の角に配置されている瓦葺(かわらぶき)の棟の名称です。露盤は、相輪の最下部にある四角い箱型のことで、木造建築では一般に低平なものが古いとされています。
 そして相輪は、五輪が三輪目と二輪目の間で折れてはいますが、伏鉢・請花・五輪・請花・宝珠と全て揃っているものと思われます(あくまで私個人の見解です)。五輪のことについては、石造物関係の書籍や辞典などでは触れておらず、通常の相輪(九輪部分)が欠損しているものだと思っていました。しかし何度か観察しているうちに、折れている箇所がほぼ合致していることに気付き、五輪であることが分かりました。「いやいや、相輪は九輪だろう!」と思ったかたもいらっしゃるかと思いますが、実は、五輪や七輪の相輪を有する石塔物や木造建築、金銅製の塔は、ごく僅かではありますが存在しています。相輪はインドのストゥーパ(仏塔)が原型で、それが中国に伝わり日本へと入ってきました。私たちがよく目にする九輪は、日本で定型化したものだと思います。
 いかがでしたか?形式や意匠についてなんとなく伝わったでしょうか?では、ここからは『安養寺宝塔』の魅力をお伝えしようと思います。

 魅力の1つ目は、なんといっても素朴。私が石造物を探索し始めの頃は、前回ご紹介しました比都佐神社宝篋印塔のような、意匠の多い見どころ満載な石造物が好みでした。逆に安養寺宝塔のような素朴な石塔は、どこを見れば良いのか?と、思っていました。しかし、いつからかおおらかさや温かみ、うっとりするような優しさが伝わってきて、見応え抜群だなあと思うようになりました。塔身は曲線だけでお腹いっぱい、屋根は唯一の意匠ですら控えめな上、屋だるみ(屋根の反り)の緩さで悩殺間違いなしです。さらに、これは中世の石造物全体に言えることですが、特に素朴な石塔は石材という硬い素材がとても柔らかく感じられます。(石造美術オタクの主観です)ぜひ、そのあたりを観察してみてください。気が付けばよだれが出ているかもしれません。
 2つ目は大きさです。もし完存していればということで、私の独断で想定してみると全高約300cm近くはあったのでないかと思います。めちゃくちゃでかいです。ついでに基礎幅も想定してみると、やはり120cm以上はあったのではないでしょうか。めちゃくちゃ立派だったと思います。基礎があれば圧巻の光景だったでしょう。現在は、基礎の代わりの自然石が屋根の苔と相まって、意外に見応え抜群です。
 3つ目は、塔身正面に彫刻された扉型と釈迦・多宝二仏並座です。扉型は木造建築の柱・長押(なげし)・束・扉がしっかり表現されており、面白い上に勉強になります。そして二仏並座もやさしい表現がされていて雰囲気抜群、いつまでも見ていられます。
4つ目はリアルな相輪です。伏鉢が低く、五輪部分は、幅が大きく凹凸がはっきりと表現され、宝珠下の請花は、通常の請花と違って開いています。これらの意匠を集約してみますと、本来の金属製の相輪の意匠に近く、当時の石工は、意識して制作したものではないかと思われます(何度も申しますが、あくまで私個人の見解です)。おもしろいので、ぜひぜひ見比べてみてください。「全然違う!」と言われるかもしれませんが・・・。
 そこがやっぱり石造美術の面白さですね。仏教の教義に則って一つ一つ丁寧に作り上げられた信仰の対象物だからこそ、既製品ではない魅力があり、見る人を魅了するのだと思います。

 以上、『安養寺宝塔』はどこを取っても大変すばらしい塔です。何度見ても見飽きません。ぜひ石材人として、一度は訪れてみてください(一度と言わず二度、三度)。また、近くには八坂神社石灯籠や知恩院五輪塔、NHK番組「行く年来る年」の除夜の鐘で有名な『知恩院の大鐘』などがあり、見どころ満載です。ぜひ、お散歩がてら探索してみてください。

 そして最後に石造美術を鑑賞するにあたって、私なりのちょっとしたマナーやモラルもお話しさせていただこうと思います。私が以前、あるお寺の境内にある石造物の見学をお願いすると、断られたことがありました。その理由は、以前の見学者が曲尺などの金属製の定規で石造物を傷つけたということでした。石造物は信仰の対象であり、それ以外の何ものでもありません。また、石造物の多くは、管理者のご厚意で見学しやすい環境に整備されています。見学されるときは、ぜひ、草抜きやお掃除など、ちょっとしたお手伝いをしていただければと思います。さらに、実測など直接石造物に触れるような場合は、事前に管理者へ連絡して了解をいただき、細心の注意を払って作業をされますよう心がけてください。
 今、掲載する写真を選んでいます。でも酒の肴にしか見えません。今日の晩酌が楽しみです!