[世伝石塔]は“中世”がお手本です(2)
こんにちは、翼石材の企画担当、高橋です。
前回は[世伝石塔(せいでんせきとう)]が中世石造物の“形”をお手本にしている理由について書きました。
今回は中世石造物の“つくり方”、つまり機械を使わない「手加工」で制作している理由について書きたいと思います。
もう察知された方もいるかもしれませんが、私は古い石造物が大好きです。
永い歳月を経た石肌が見せる、石の表情。
「これぞ侘び・寂び」と思わせる味わいの深さ。
何百年も前の石工(いしく)がノミとセットウでコツコツと石を叩き、その表面が風化して丸みを帯びた形も、日本の自然と人とが織りなした、かけがえのないものと感じます。
そもそも「古びて美しさが増すもの」が好きなのかもしれません。
たとえば古着――ヴィンテージやユーズド・アイテムを好む気持ちも同じです。
新品のときが最も美しいのではなく、優れた材質と確かな技術でつくられ、それを大切に使ってきた誰かがいて、その結果として今、味わい深い風合いを放っている。
そういうものこそいいな…と感じるのです。
では新しいお墓をつくる場合、どうすればいいか。
今、目の前で美しさを帯びているものと同じつくり方をするのが最善ではないでしょうか。
新品は何でもきれいなものです。
石工が叩いてつくった手加工のお墓も、自動研磨機で製造した磨き仕上げのお墓も、それぞれ固有の美しさをもっています。
しかし、機械が成形したものは月日が経つごとにどうしても汚れて、美しさを失っていきます。
手づくり品なら味わいにつながる“風化”が、機械生産の品ではただの“劣化”になってしまうのが石という物質の現実です。
新品のときだけでなく5年後、10年後、そして今の中世石造物がそうであるように、数百年後も美しいお墓であってほしい。
そんなことを考えて手加工を採用しているのです。
現代の和墓(和型墓石)は、いわゆる「磨き仕上げの角柱塔(角柱型墓石)」が一般的です。
角柱塔は江戸時代、磨き仕上げは昭和の初めごろから普及したといわれています。
当初の磨き仕上げは石工が砥石で墓石表面を擦る手間ひまかけた高級品でしたが、機械工学の発達とともに手動研磨機が発明され、やがて自動研磨機が登場して一挙に大量生産できるようになりました。
もちろん成形も同様に機械化が進み、石工がノミとセットウを使ってコツコツと石を叩くような“手仕事”は必要とされない時代を迎えました。
さらに、日本人のお墓は1980年代以降、海外生産が主流となっています。
最初は韓国、さらにはより人件費の安い中国へと舞台を移しながら、現地の石工が製造したお墓を日本へ輸入、それを石材店が販売するという事業スタイルが定着しました。
そしてその間に、手仕事をこなす昔ながらの石工はもとより、墓石加工工場さえ激減しました。
大多数の石材店が海外産の既製品の輸入販売業に転じたため、お墓をつくる技術が次の世代へと受け継がれなくなってしまったのです。
そんな状況下で「手加工のお墓を」とスタートした[世伝石塔]シリーズですから、多くの人々が、特に業界の事情を知る同業の仲間たちが「手間をかけすぎだ」と呆れたのも無理ないかもしれません。
「希少価値だ」と認めてくれるお施主様や同業者が増え、実際に安定してご注文をいただき出したのはここ数年のことです。